40代で介護職として働いているものの、「体力的にきつくなってきた」「もう少し収入を上げたい」といった理由で、異業種への転職を考えている方は多いのではないでしょうか。
実際に、公益財団法人介護労働安定センターの令和6年度調査によると、介護職の主な離職理由として「職場の人間関係に問題があったため」(24.7%)が最多となっており、体力面や働く環境への不満が転職を検討するきっかけとなっています※。
この記事では、40代介護職から異業種への転職を検討している方に向けて、転職を成功させるためのポイントや経験を活かせるおすすめの職種について、最新のデータとともに詳しく解説します。 転職活動を進める前に知っておくべき現実と、具体的な対策を理解することで、より良いキャリアチェンジを実現できるでしょう。
※参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度介護労働実態調査」
40代介護職から異業種転職の現状と可能性

介護職としては40代はまだまだ若手、と言われることも多く、転職をする際は歓迎される年齢です。しかし、介護職から異業種への転職となると、非常に難しい年齢となってしまいます。
事前に、自身の年齢の立ち位置をしっかり理解しておくことも大切です。ここでは、40代介護職から異業種転職の現状と可能性について押さえておきたいと思います。
40代転職の現実的な成功率
40代での転職は「厳しい」といわれますが、実際のデータはどうなっているでしょうか。 厚生労働省の令和5年雇用動向調査によると、40代の転職入職率(転職による入職者の割合)は一定の水準を保っており、決して不可能ではないことが分かります。
ただし、40代の転職には20代・30代と比較して以下のような特徴があります。
- 求められるスキルレベルが高い:即戦力としての期待が大きい
- 求人数が相対的に少ない:管理職や専門職の募集が中心
- 転職期間が長期化する傾向:慎重な選考プロセスが一般的
そのため、40代の異業種転職では「介護職の経験をどう活かすか」という視点が極めて重要になります。 単に「介護を辞めたい」だけではなく、これまでの経験を新しい分野でどう活用するかを明確にすることが成功のポイントとなります。
介護業界から転職する人の統計的傾向
介護業界の離職率について、公益財団法人介護労働安定センターの最新調査(令和6年度)では、訪問介護員・介護職員の離職率は12.4%と2年連続で低下しており、過去最低水準となっています※。
全産業平均の離職率(15.4%)と比較すると、介護職の離職率は実は低い水準にあります。 これは、介護職の待遇改善や働き方の見直しが進んでいることを示しています。
しかし、離職する人の理由を見ると、以下のような傾向が見られます。
離職理由 | 割合 |
職場の人間関係に問題があったため | 24.7% |
結婚・妊娠・出産・育児のため | 18.5% |
法人や施設の理念や運営のあり方に不満があったため | 11.2% |
他に良い仕事・職場があったため | 10.8% |
※参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度介護労働実態調査」
特に注目すべきは「他に良い仕事・職場があったため」という前向きな転職理由が一定割合を占めていることです。 これは、介護職の経験を活かした転職やキャリアアップが実際に行われていることを示しています。
40代介護職転職の現実的な課題
40代の介護職から異業種転職を考える際、以下のような課題があることも事実です。
年齢による制約 多くの企業では、長期勤続による人材育成を前提とした採用を行うため、40代での未経験職種への転職は選択肢が限られます。 特に、IT関係や専門技術職などは、経験や資格が重要視される傾向があります。
介護職の特殊性 介護職は専門性が高い一方で、他業界からは「特殊な仕事」と見られがちです。 そのため、介護職で培ったスキルが他の仕事でどう活かせるかを、転職活動で明確に説明する必要があります。
収入面での現実 異業種転職の場合、一時的に収入が下がる可能性があることも考慮が必要です。 ただし、中長期的な視点で見ると、キャリアパスによっては現在より高い収入を得られる場合もあります。
介護職から異業種転職を考える主な理由

体力面の不安と年齢による限界
介護職から異業種への転職理由として最も多いのが「体力面の不安」です。
介護業務は日常的に身体を使う場面が多く、特に移乗介助や入浴介助、排泄介助などでは腰や膝への負担が大きくなります。 40代になると、これまで蓄積された身体的な負担が表面化し、「このまま続けられるか不安」と感じる方が増えてきます。
実際に、腰痛や関節痛などの職業病に悩む介護職員は多く、将来的な健康面への懸念が転職を検討するきっかけになることは珍しくありません。
夜勤の負担 また、夜勤を含む不規則な勤務体制も、年齢を重ねるにつれて負担が大きくなります。 20代・30代の頃は問題なくこなせていた夜勤も、40代になると体力的にきつく感じられ、生活リズムの乱れから体調を崩すケースもあります。
給与水準への不満と将来への不安
厚生労働省の「令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、介護職員の平均月給(基本給+手当等)は約33万8,200円となっています※。 これは全産業平均と比較すると、まだ改善の余地がある水準です。
40代は子どもの教育費や住宅ローンなど、家計の支出が最も多くなる時期でもあります。 そのため、「現在の給与では将来の生活設計に不安がある」と感じて、より高収入が期待できる職種への転職を検討する方も少なくありません。
※参考:厚生労働省「令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果」
人間関係や職場環境の問題
介護現場では、利用者やその家族、同僚、上司、医療スタッフなど多くの人との関わりが必要です。 人手不足の影響で職場環境が悪化し、人間関係のトラブルが発生しやすい状況があります。
特に「上司や先輩からの指導や言動がきつい」「パワーハラスメントがあった」といった職場の人間関係の問題は、前述の調査でも離職理由の最上位にランクされています。
職場環境の改善が期待できない場合、心身の健康を守るために転職を選択することは、適切な判断といえるでしょう。
キャリアアップの機会への不満
介護職でのキャリアパスは、介護福祉士やケアマネジャーの資格取得、施設長や管理者への昇進などがありますが、ポスト数には限りがあり、必ずしもキャリアアップの機会に恵まれるとは限りません。
40代で「新しいことにチャレンジしたい」「違う分野で自分の可能性を試したい」と考える方にとって、異業種転職は自己実現の手段となります。
介護職経験が活かせる異業種・職種

40代で介護職から異業種転職を目指す際、どういった業種・職種が転職を狙いやすいかを解説します。やはり介護職で身に付けたスキル、経験が活かせる仕事の方が転職成功率は高くなります。
採用する側としても、何かしら採用後にすぐに戦力になるスキルを持っていて欲しいと考えるためです。
コミュニケーション力を活かせる職種
介護職で培われる最大のスキルの一つが、コミュニケーション力です。 認知症の方や様々な背景を持つ利用者との関わりを通じて身につけた対話スキルは、多くの職種で重宝されます。
営業職
営業職では、顧客のニーズを汲み取り、信頼関係を築く能力が重要です。 介護職で培った「相手の立場に立って考える力」や「困りごとを聞き出すスキル」は、営業活動に直結します。
特に、医療・福祉関連の商品やサービスを扱う企業では、介護現場での経験は大きな武器となります。 福祉用具メーカーの営業職や、介護施設向けのサービス営業などでは、現場を知っている強みを活かせるでしょう。
接客・販売業
小売業や飲食業における接客スタッフも、介護職の経験が活かせる分野です。 お客様の表情や様子から察する洞察力、丁寧な応対スキル、忙しい状況でも冷静に対応できる能力などは、接客業で高く評価されます。
人をサポートする職種への転職
医療事務・介護事務
医療機関や介護施設での事務職は、介護職の経験を直接活かせる分野です。 利用者や患者さんとの接し方、医療・介護保険制度の理解、施設の業務フローに関する知識などは、事務職でも重要なスキルとなります。
デスクワークが中心となるため、身体的な負担を軽減しながら、これまでの経験を活用できるのがメリットです。
カスタマーサポート・コールセンター
電話やメールでの顧客対応を行うカスタマーサポートも、コミュニケーション力を活かせる職種です。 クレーム対応や困っている顧客への親身なサポートは、介護職で身につけた「相手の気持ちに寄り添う力」が大いに役立ちます。
管理・指導経験を活かせる職種

施設管理・現場監督
介護職でリーダーや主任の経験がある方は、建設現場や工場などの現場監督、施設管理職への転職も可能です。 スタッフの管理、シフト調整、安全管理などの経験は、他の業界でも通用するマネジメントスキルです。
人材派遣・人材紹介の営業
人材業界では、求職者と企業をマッチングさせる仕事があります。 介護職での人間観察力や相談対応の経験は、求職者の適性を見極めたり、企業の要望を理解したりする際に活かせます。
社会貢献性の高い職種
保険外交員・生命保険営業
生命保険の営業職は、お客様の人生設計をサポートする仕事です。 介護現場で高齢者や病気の方と関わった経験から、保険の重要性を実感として理解しており、説得力のある提案ができます。
また、介護職で培った信頼関係構築能力は、長期的な顧客関係を築く保険営業に適しています。
教育・研修関連
介護職での指導経験がある方は、企業研修や職業訓練校の講師などの道もあります。 特に、介護技術の指導や接遇研修などの分野では、実務経験に基づいた指導ができる人材が求められています。
40代介護職の異業種転職成功のポイント
40代で異業種転職に成功するためのポイントを解説します。転職成功する方には共通して、以下のような点が見られます。
転職理由の明確化と前向きな表現
転職活動で最も重要なのは、転職理由を明確にし、前向きに表現することです。
NG例:ネガティブな表現
- 「介護の仕事がきつくて辞めたい」
- 「給料が安いから転職したい」
- 「人間関係が嫌になった」
OK例:前向きな表現
- 「介護現場で培ったコミュニケーション力を、より多くの方の役に立てる営業職で活かしたい」
- 「利用者様との関わりを通じて、人をサポートする仕事にやりがいを感じ、より幅広い年代の方のお役に立ちたい」
- 「マネジメント経験を活かして、チーム全体の成果向上に貢献したい」
転職理由を語る際は、介護職で得た経験や価値観をベースに、新しい職種でどのように貢献できるかを具体的に説明することが重要です。
介護職の経験価値をアピールする方法
具体的なエピソードで説明 介護職の経験は、具体的なエピソードとともに説明すると説得力が増します。
例: 「認知症の利用者様とのコミュニケーションでは、言葉以外の表情や仕草から気持ちを汲み取ることが重要でした。この経験から、お客様の潜在的なニーズを察知し、最適な提案をする営業スキルを身につけました」
数値で成果を示す 可能であれば、数値を使って成果を示しましょう。
例:
- 「20名の利用者様を担当し、事故ゼロを◯年間継続」
- 「新人指導を◯名担当し、全員が資格取得に成功」
- 「業務改善提案により、◯時間の業務効率化を実現」
業界研究と企業研究の重要性
異業種転職では、転職先の業界や企業について詳しく調べることが不可欠です。
業界の動向を把握
- 市場規模や成長性
- 主要企業と競合状況
- 業界特有の課題や将来性
- 求められるスキルや資格
企業の特色を理解
- 企業理念と事業内容
- 社風や働き方
- 求める人材像
- キャリアパス
この情報収集により、面接で「なぜこの業界・この会社を選んだのか」について説得力のある回答ができるようになります。
転職活動の進め方
在職中の転職活動 40代の転職では、収入の安定確保のため在職中に転職活動を進めることをお勧めします。 介護職は比較的時間の調整がしやすい場合もあるので、面接や企業見学の時間を確保しましょう。
転職エージェントの活用 40代の転職では、転職エージェントの活用が有効です。 特に、ミドル層の転職支援に強いエージェントや、異業種転職の実績があるアドバイザーを選ぶことが重要です。
ネットワークの活用 知人や元同僚など、個人的なネットワークから転職情報を得ることも重要です。 40代の転職では、公開されていない求人情報(非公開求人)が多いため、人脈を通じた情報収集が成功の鍵となります。
必要に応じたスキルアップ
基本的なPCスキル 事務職や営業職では、基本的なPC操作スキルが必要です。 Word、Excel、PowerPointの基本操作は最低限身につけておきましょう。
業界特有の資格 転職先の業界で重視される資格がある場合は、事前に取得しておくと有利です。 例:販売士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなど
コミュニケーション能力の向上 介護職以外での敬語やビジネスマナーを改めて確認し、必要に応じてビジネスマナー研修を受講することも検討しましょう。
転職活動で注意すべきポイント
年収や待遇面の現実的な期待値設定
異業種転職では、一時的に年収が下がる可能性があることを理解しておく必要があります。 特に未経験の職種では、最初は研修期間として低めの給与設定になることが一般的です。
ただし、中長期的な視点で見ると、営業職など成果に応じて収入が上がる職種では、将来的に介護職時代を上回る収入を得られる可能性もあります。
転職前の準備
- 家計の見直しと必要最低収入額の把握
- 転職活動費用の確保
- 家族の理解と協力の確保
転職時期とタイミングの検討
40代転職の最適なタイミング 一般的に、40代の転職は慎重な検討が必要です。 以下の点を考慮して転職時期を決めましょう。
- 家族のライフステージ(子どもの進学時期など)
- 住宅ローンなどの固定費の状況
- 現職での経験やスキルの蓄積度合い
介護業界の繁忙期を避ける 介護業界では年度末(3月)や年度始め(4月)は特に忙しくなります。 円満退職のためにも、これらの時期を避けて転職活動を進めることをお勧めします。
介護職への復職可能性も考慮
異業種転職が必ずしも成功するとは限りません。 新しい職場に適応できない場合や、やはり介護の仕事にやりがいを感じる場合に備えて、介護職への復職可能性も考慮しておきましょう。
介護職の需要は継続 高齢化社会の進展により、介護職の需要は今後も続くと予想されます。 一度異業種で経験を積んだ後に、より良い条件で介護職に復帰するという選択肢もあります。
資格やスキルの維持 介護福祉士などの資格は、更新研修を受けることで維持できます。 転職後も可能な範囲で専門性を保持しておくことをお勧めします。
よくある質問と対策
40代未経験での転職は現実的に厳しいのか?
40代未経験での転職は確かに20代・30代と比較すると厳しい面がありますが、不可能ではありません。 重要なのは「完全に未経験」ではなく、「介護職で培った経験をどう活かすか」という視点で転職活動を進めることです。
成功のポイント
- 介護職の経験が活かせる職種を選ぶ
- 人手不足の業界を狙う(営業職、接客業、物流業など)
- 年齢よりも経験や人間性を重視する企業を探す
- 地域密着型の中小企業も視野に入れる
面接で介護職の経験をどうアピールすべきか?
面接では、介護職の経験を転職先の業務にどう活かせるかを具体的に説明することが重要です。
効果的なアピール方法
- 課題解決能力:利用者の困りごとをどう解決したか
- チームワーク:多職種連携での経験
- ストレス耐性:困難な状況での対応経験
- 責任感:利用者の生命や生活を預かった責任感
- 継続力:長期間にわたって利用者と関わった経験
転職活動期間はどの程度見込むべきか?
40代の転職活動期間は、一般的に3~6か月程度を見込んでおく必要があります。 異業種転職の場合は、さらに長期化する可能性もあります。
期間短縮のコツ
- 複数の転職手段を並行して進める
- 転職エージェントを積極的に活用
- 応募企業を絞り過ぎない
- 面接対策を十分に行う
まとめ
40代の介護職から異業種への転職は、確かに簡単ではありませんが、適切な準備と戦略により実現可能です。 重要なのは、介護職で培った経験やスキルをネガティブに捉えるのではなく、新しい職種でどう活かせるかをポジティブに考えることです。
転職理由を明確にし、目指す業界・職種について十分に研究した上で、計画的に転職活動を進めてください。 また、転職は人生の大きな決断ですので、家族や信頼できる方とよく相談し、慎重に判断することをおすすめします。
また、転職期間も長くなることを想定して、計画的に行動していきましょう。介護業界では需要が高く、転職しやすい40代ですが、異業種転職では40代は非常に採用の難易度が高い年齢のためです。
難しい年齢ではありますが、人手不足によって人柄、スキル、経験などを考慮して採用してくれる企業はきっとあると思います。ぜひ、前向きに行動していただけたらと思います。