報連相が苦手、といった介護職の方も多いのではないでしょうか?
介護現場では、チームでの連携が欠かせません。その中でも「報告・連絡・相談(報連相)」は、情報を正確に伝え、ミスやトラブルを未然に防ぐための基本となる行動です。
報連相が適切に行われていないと、利用者の状態悪化に気づけなかったり、職員間の連携ミスで事故や混乱を招く恐れがあります。
一方で、日々の業務に追われる中で「言ったつもり」「伝わったと思っていた」といったすれ違いが生まれがちなのも事実です。
そこで本記事では、介護現場における報連相の基本から実践ポイント、定着の工夫やチェックリストの活用法までをわかりやすく解説します。
報連相を上手に活用し、安心して働ける職場づくりとケアの質向上につなげましょう。
介護業界で報告・連絡・相談はなぜ重要なのか

介護の現場は、一人で完結する仕事ではありません。
利用者の命や暮らしを支えるためには、職種や担当の垣根を越えたチームでの連携が必要不可欠です。
その中核となるのが「報告・連絡・相談(報連相)」です。
報連相が正しく行われていれば、情報共有がスムーズになり、ケアの質が向上します。
逆に、報連相の不足や誤解は、重大なミスや利用者との信頼関係の崩壊につながりかねません。
ここでは、報連相がなぜ必要なのか、その理由を6つの視点から解説します。
報連相の定義、それぞれの違い(報告・連絡・相談)
報連相とは、「報告」「連絡」「相談」という3つの行動を指す言葉です。
それぞれの意味と役割には明確な違いがあります。まずは、それぞれの定義、違いを抑えておきましょう。
区分 | 意味 | 主な相手 | タイミング |
報告 | 結果や経過を伝える | 上司や責任者 | 業務後・異常時 |
連絡 | 必要な情報を共有する | 同僚・関係職員 | 業務中・変更時 |
相談 | 判断が難しいときに助言を求める | 上司・先輩職員 | 判断前・対応に迷うとき |
たとえば、「転倒した利用者がいる」というケースでは、事故状況を上司に伝えるのが報告、勤務交代者に状況を伝えるのが連絡、対応に悩んだら上司に相談するのが相談です。
場面に応じて的確に使い分けることが、信頼される介護職の第一歩です。
利用者の安全確保とケアの質向上
利用者の体調や行動には日々さまざまな変化があります。
そうした小さな変化にも気づき、それを適切に伝えることが、安全なケアを実現するために欠かせません。報連相が徹底されていれば、異常の早期発見と迅速な対応が可能になります。
一方で、「気づいていたけど伝えなかった」「何となく見逃した」などの些細な判断ミスが、重大な事故や状態悪化を招くこともあります。
- 体調変化や異変を感じたら、すぐに報告・連絡を徹底
- 些細なことでも「大丈夫だろう」と思わず、必ず伝える
チームワーク・連携強化
介護の現場は、一人の力だけでは成り立ちません。複数の職種が連携しながら、ひとつのケアを提供しています。
報連相が円滑に行われていれば、業務の重複や抜け漏れが減り、無駄な確認作業も不要になります。
また、報連相の文化が根づいている職場では、スタッフ間の信頼関係が強化され、協力し合える環境が整いやすくなります。
夜勤・早番などの勤務交代時も、引き継ぎがスムーズに実現できるようになります。
- 引き継ぎの質が高まり、情報の抜け漏れが防げる
- 他職種への連携(医師、看護師、機能訓練指導員など)もスムーズに
トラブル・事故の未然防止
報連相の欠如は、ヒヤリ・ハットやインシデントの大きな要因となります。
「聞いていなかった」「誰かが伝えてくれていると思っていた」といった曖昧な認識が事故につながるケースは少なくありません。
- 食事形態や服薬指示の伝達ミス
- 転倒や異常行動の報告漏れ
- 家族への連絡ミスによる不信感の増加
こうしたトラブルは、正しい報連相によって未然に防げるものばかりです。
トラブルを防ぐことは、職場の信頼と安全を守ることに直結します。
- 「伝えたつもり」「聞いていない」を防ぐため、必ず確認を取る
- 口頭だけでなく、書面やITツールも活用して記録を残す
利用者・家族との信頼関係構築
利用者や家族にとって、施設や職員に対する信頼は何よりも大切です。介護の質にも関わってきます。
報連相がしっかり行われていることで、「きちんと情報が伝わっている」「対応が一貫している」と感じてもらえ、信頼関係が深まります。
逆に、職員ごとに言っていることが違ったり、情報が伝わっていないと、「ちゃんと見てくれていないのでは?」という不信感につながります。
報連相は、ケアの内容だけでなく、家族対応の質にも直結しています。
自分自身を守るためにも報連相は大切
報連相は他者のためだけでなく、自分自身を守る手段にもなります。
適切に報告・連絡・相談を行っていれば、トラブルが起きた際に「伝えていなかった」と責められることはありません。また、報連相の記録が残っていれば、自分の正当性を証明する材料にもなります。
- エビデンス(証拠)として機能する
- 上司や他部署との誤解を避けられる
- 信頼される職員としての評価にもつながる
介護職における報連相の目的と役割

介護の現場では、一人ひとりの行動がチーム全体のケアに影響を与えます。
その中で報連相は、単なる情報伝達にとどまらず、「より良いケアの実現」や「チームの信頼形成」など、多くの目的と役割を担っています。
報連相の本来の意味を理解し、日常業務の中でその重要性を意識することが、質の高いサービスにつながります。
ここでは、報連相を徹底することのメリットと、できていない場合のリスクについて整理します。
報連相を徹底することで得られるメリット
報連相がきちんと行われている現場では、スタッフ間の連携がスムーズになり、業務効率も高まります。
情報の共有が進むことで、誰が見ても利用者の状態や対応方針が分かり、ケアの「ばらつき」や「思い込みミス」を減らせます。
また、報連相はチームの信頼関係を深め、心理的安全性のある職場環境づくりにもつながります。
自分の考えや不安を素直に伝えられることで、孤立感が減り、安心して働くことができます。
- 状況把握がしやすくなり、迅速な対応が可能になる
- チーム全体での課題共有ができ、業務改善が進む
- 「聞きやすい」「伝えやすい」職場づくりが促進される
さらに、業務の進捗が見える化されるため、上司や管理者にとっても支援の判断がしやすくなります。
報連相は、現場全体の動きを見える形にする「潤滑油」のような存在です。
報連相が円滑にできないとどうなるか
報連相が適切に行われていない職場では、さまざまな弊害が生まれます。
まず、利用者の状態変化が共有されずに見落とされることで、ケアミスや事故につながるリスクが高まります。
また、スタッフ間の認識がずれたまま業務が進行することで、混乱や責任の所在のあいまいさが生じます。
- 利用者の体調変化に気づけず、対応が遅れる
- 職員同士の言った・言わないトラブルが発生する
- 不満や誤解が積み重なり、人間関係が悪化する
こうした状況が続くと、職場の雰囲気が悪くなり、結果として離職率の上昇にもつながります。
介護職にとって報連相は、利用者のためだけでなく、働く自分たちを守るための行動でもあるのです。
介護現場での報連相のポイント

報連相は、ただ伝えるだけでは十分とは言えません。「相手に正確に伝わり、理解され、行動に反映されること」が重要です。
介護現場では、忙しさや多職種間のやりとりの中で、情報の伝達が曖昧になったり、誤解を生むケースも少なくありません。
ここでは、報告・連絡・相談それぞれを効果的に行うためのポイントと、伝え方の工夫について解説します。
具体的な「報告」のポイント
報告では「何が起こったのか」「今どうなっているのか」「これからどうしたいか」を簡潔にまとめて伝えることが大切です。
特に現場では時間が限られているため、結論から伝える「PREP法(Point→Reason→Example→Point)」などの構成が有効です。
- 結論から伝える(例:「Aさんが転倒しました」)
- 5W1H(誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どのように)を意識する
- 客観的な事実と主観的な感想を分けて報告する
また、報告の内容は記録にも残すことが望ましく、後から見返せる形で整理されていると、トラブル時の証拠にもなります。
「報告は早く・正確に・簡潔に」が基本。迷ったらまず報告することが大切です。
効果的な「連絡」の方法
連絡は「知っておくべき情報を、必要な相手に、適切なタイミングで伝える」ことが求められます。
勤務交代時の引き継ぎ、業務内容の変更、利用者の予定など、連絡の対象は多岐にわたります。
- 曖昧な言い回しや省略語は避ける(例:「いつもの薬」はNG)
- 書面・口頭・ICT(チャットやアプリ)など手段を使い分ける
- 緊急性が高い情報は必ず口頭+確認で伝える
また、伝えただけで安心せず、「相手が理解したかどうか」まで確認する姿勢も大切です。
上手な「相談」の仕方
相談は、自分一人で判断に迷ったときに助けを求める大切な行動です。しかし、「迷惑ではないか」「評価が下がるのでは」と感じ、相談をためらうケースも見受けられます。
職場全体として相談しやすい雰囲気をつくることが、相談文化の土台になります。
- 相談は早めに・具体的に(例:「どうすればいいですか?」ではなく「AかBかで迷っています」)
- 感情ではなく事実を伝える
- 上司や先輩の忙しさを見ながらタイミングを配慮する
専門用語を避け、簡潔に伝える工夫
報連相の際に専門用語や略語を多用すると、伝える相手によっては誤解を招く原因になります。
特に多職種連携や新人職員とのやりとりでは、相手の知識量や理解度を考慮した言葉選びが必要です。
- 難解な言葉を使わず、誰にでも分かる表現にする
- 1文を短く、主語と述語を明確に
- 利用者の様子などは「○○していました」と具体的に伝える
こうした工夫を習慣化することで、情報伝達の精度が上がり、現場の混乱を減らすことにつながります。
伝達内容は記録にも残すと、曖昧さや記憶違いが生じにくくなります。
介護現場での報連相の事例・具体例

報連相の必要性やポイントを理解しても、いざ現場で「どう伝えればいいのか」が分からないという声も多く聞かれます。
報連相の質を高めるには、実際の事例を参考にしながら、どんな場面で何をどう伝えるのかを具体的にイメージすることが大切です。
ここでは、「報告」「連絡」「相談」それぞれの典型的なケースを取り上げ、現場で使える実践的な表現や工夫を紹介します。
報告の具体例(利用者の体調変化・事故報告など)
報告では、「何が起きたか」だけでなく「現時点でどうなっているか」「今後の対応をどう考えているか」も伝える必要があります。以下のようなケースが挙げられます。
例1:体調変化の報告
- 「Aさんが本日15時ごろから食事量が著しく減っています。バイタルは36.8度、脈拍72と異常はありませんが、普段より元気がない様子です。」
- 「念のため、夕方のバイタルも測定し、必要であれば看護師へ報告します。」
例2:転倒の報告
- 「Bさんが18時のトイレ誘導中に転倒しました。トイレ前でバランスを崩したようで、左膝を軽く打撲しています。意識・会話ともに正常、看護師に報告済みで現在は安静にしています。」
事故報告は、事実・経過・対応・現在の状況を整理して伝えることが大切です。
連絡の具体例(勤務交代・ケア内容の共有など)
連絡は、主に業務の引き継ぎや変更事項の伝達に用いられます。相手に正しく伝わるよう、過不足なく整理して伝えることが求められます。
例1:勤務交代の連絡
- 「明日の夜勤はCさんからDさんに変更になりました。すでにシフト表も更新済みです。」
例2:ケア内容の変更連絡
- 「Eさんは今日からおかゆに変更になっています。朝食時に誤って常食が配膳されないよう、食札と厨房にも連絡済みです。」
例3:生活リズムの変化に関する共有
- 「Fさんが最近、昼寝の時間が長くなっています。午後のレクリエーションに参加されないことが増えているので、他職種でも様子を見てください。」
こうした情報は、メモや口頭で伝えるだけでなく、連絡ノートや記録ソフトへの記載も併用することで確実に共有できます。
相談の具体例(判断に迷う場面・職場の人間関係など)
相談は、迷いや不安があるときに行うことで、判断ミスや一人で抱え込むリスクを減らす手段です。具体的な事例をもとに、相談の切り出し方も工夫しましょう。
例1:利用者対応に関する相談
- 「Gさんが入浴を強く拒否されています。無理に促すと怒られることもあり、対応に困っています。何か良い声かけの工夫やタイミングはありますか?」
例2:ケア方針の相談
- 「Hさんの排泄介助ですが、自立支援の観点から、もう少し見守りを増やした方が良いか迷っています。一度ケアマネと相談してみてもいいでしょうか?」
例3:職場内の人間関係についての相談
- 「Iさんとの情報共有で行き違いが多く、伝えたつもりでも伝わっていないと指摘されることが続いています。自分の伝え方に問題があるか、アドバイスをいただけますか?」
介護現場で報連相がうまく伝わらない理由

報連相の重要性は理解していても、現場で「伝えたつもりが伝わっていなかった」「聞いたけれど忘れてしまった」というトラブルは後を絶ちません。
こうした“伝達のすれ違い”は、事故やクレームの原因となるだけでなく、職場の雰囲気や信頼関係にも悪影響を及ぼします。
ここでは、介護現場における報連相がうまくいかない理由を、よくある背景とともに整理します。
忙しさによる後回し・伝え忘れ
介護職は常に複数の業務を並行して行っており、1日の中で余裕のある時間は限られています。そのため、「あとで伝えよう」と思っていても忘れてしまう、あるいはタイミングを失ってしまうケースが多く見られます。
- 利用者の対応中に話しかけられ、報連相が中断される
- 業務終了後に思い出すが、相手がすでに退勤していた
- 書き残さず口頭だけで伝えてしまい、記録に残らない
連絡手段が統一されていない
近年、介護現場でも連絡ツールが多様化しています。連絡ノート、口頭、LINE、介護記録ソフト、掲示板など、複数の手段が存在することで、逆に情報が分散し、伝わりづらくなることもあります。
- どの手段で伝えたか曖昧になり、ダブりや漏れが発生
- チェックされていないノートやアプリ内の未読情報が埋もれる
- 相手が見ていない前提で伝える努力が不足する
共有のルールがないと、伝えた側と受け取った側で「伝わっている前提」がずれたまま業務が進んでしまいます。
言いづらさ・遠慮・上下関係
特に新人や若手職員にとっては、「こんなことを報告してもいいのか」「こんなことで相談したら迷惑では」と感じ、報連相を控えてしまう心理的ハードルも存在します。
- 上司が忙しそうで声をかけづらい
- 過去に注意された経験があり、また叱られるのではと不安になる
- 本人の性格的に言葉にして伝えるのが苦手
こうした遠慮が、結果的に重大な情報の遅れや報告漏れにつながることがあります。職場として「気軽に伝えられる雰囲気」をつくることが大切です。
「伝えたつもり」「聞いたつもり」の思い込み
報連相のすれ違いで最も多いのが、伝えた側と受け取った側の“認識のズレ”です。報告したが相手が理解していなかった、連絡は聞いていたけど内容を忘れていた、相談したけど曖昧に終わってしまった、というケースは意外と多く見られます。
- 言葉が足りず、相手に伝わっていない
- 曖昧な表現や専門用語で誤解が生じる
- 一方的な伝達で、確認や再説明がないまま進行
介護現場に報連相を定着させるための目標と取り組み方

報連相は一度覚えれば終わり、というスキルではありません。現場で実践し、習慣として定着させていくには、職員一人ひとりの意識づけと、職場としての継続的な取り組みが必要です。
特に新人や中堅職員に向けた段階的な目標設定や、現場でのフィードバック体制が整っているかどうかが、報連相の質と継続性に大きく関わってきます。
ここでは、報連相のスキルを根づかせるための実践的なアプローチを紹介します。
新人・中堅向けの報連相スキル目標例
新人職員にとっては、何をどこまで報連相すれば良いのか分からず、黙ってしまうこともあります。そのため、最初の段階では「報連相の量を増やす」ことが第一の目標になります。
慣れてきたら、「質」や「タイミング」など、レベルに応じたステップアップが有効です。
段階的な目標例:
- 【新人】「分からないことは必ず先輩や上司に質問・相談する」「利用者の体調や様子に変化があれば、すぐに報告する」
- 【入職1か月後】「判断に迷ったら必ず相談するようにする」
- 【中堅】「後輩からの相談を受け、適切なアドバイスを返す」「チーム全体の情報共有を意識する」
- 【リーダー層】「報連相のしやすい職場雰囲気をつくる」
また、こうした目標は個人任せにせず、リーダーや上司が具体的にサポートし、定期的に振り返りの機会を設けることで、実行力が高まります。
目標設定を効果的に行うためのポイント
- 目標を明文化し、全員で共有する
ホワイトボードや業務マニュアルに記載し、いつでも確認できるようにします。 - 定期的な振り返りやフィードバック
月1回など定期的に振り返りの場を設け、達成度や課題を話し合います。 - 小さな成功体験を積み重ねる
目標達成を褒め合い、モチベーションを維持することが大切です。
現場での実践例として、「今月は“必ず1日1回は報告・相談をする”」など、短期間・具体的な目標を設けて実践すると、報連相の習慣化が進みます。
また、上司や先輩からのフィードバックや、他職員との振り返りの場(ケース検討会やOJT)も活用すると、目標が「やらされ感」にならず、自分の成長として実感しやすくなります。
報連相のチェックリストと活用方法
報連相の質を高めるには、「ちゃんと伝えたつもり」を見直す機会が必要です。そこで役立つのが、日々の業務で簡単に活用できるチェックリストです。
報連相の内容やタイミング、伝え方が適切だったかを振り返ることで、伝達ミスや思い込みを減らし、報連相の精度を高めることができます。
この章では、現場で使えるチェックリストの具体例と、その効果的な活用方法について解説します。
現場で活用できるチェックリスト例
チェックリストは、あらかじめ「報連相で気をつけるべきポイント」を項目化しておくことで、日々の自己点検や新人指導の補助としても使える便利なツールです。
以下のような簡易チェック形式での活用が効果的です。
報連相チェックリスト例(抜粋):
チェック項目 | チェック内容 |
□ 結論から簡潔に伝えたか? | 報告の最初に要点をまとめたか |
□ 5W1Hを意識して説明できたか? | 誰が・何を・いつ・どこで・なぜ・どうした |
□ 相手が理解したか確認したか? | 「分かりました」と返答があったか |
□ 記録にも残したか? | 連絡ノート・電子記録に反映されているか |
□ 専門用語を使わず分かりやすく話したか? | 相手に応じて表現を調整したか |
必要に応じて、職場独自のルールや利用者の特性に応じた項目を加えると、より実践的な内容になります。
チェックリストを使った自己評価と改善
チェックリストは作るだけでは意味がありません。活用のポイントは「振り返り」です。
たとえば、週に1度や月に1度、チェックリストに沿って自分の報連相を見直す時間をつくることで、課題に気づき、改善行動につなげることができます。
- 自己評価の習慣化:「どこで失敗したか」「何を改善できたか」を記録
- チームでの共有:チーム会議やミーティングで、共通の課題を出し合う
- 上司との面談時に活用:チェックリストを元に具体的なフィードバックをもらう
また、新人研修やOJTの一環としてチェックリストを使えば、報連相の基本を“見える形”で伝えることができ、育成の効率も高まります。
職場での報連相ルール作りと共有のコツ

報連相の質を安定させるには、個人任せでは限界があります。誰が、どのような情報を、いつ、どの手段で伝えるのかを職場として明確にルール化し、全員で共通認識を持つことが大切です。
属人的なやり方のままだと、伝え方や受け取り方にばらつきが出て、トラブルの原因になります。
ここでは、報連相がしやすい職場をつくるためのルール設計と、その共有方法の工夫について紹介します。
伝え方・タイミング・ツールの選び方
報連相のルールを決める際は、「何を、誰に、どの手段で伝えるか」をシンプルに定めることが基本です。また、緊急性や重要度に応じて、伝え方を使い分けることも必要です。
伝達手段の使い分け例:
状況 | 伝え方 | 備考 |
緊急時(転倒・急変など) | 口頭+即時報告 | その場で上司・看護師に報告 |
通常の申し送り | 口頭+記録ソフト | 朝礼やシフト交代時に共有 |
勤務変更・予定の連絡 | 書面・チャットツール | 全職員に情報が届く手段で |
- 曖昧な表現や省略語は避け、明確な言葉で伝える
- 「誰に伝えるべきか」を職種や役職ごとに整理しておく
- ICT活用の際も、最終確認は“対面”で行うなどの補足ルールを設けると安心
「何を・誰に・いつ・どうやって」を職場全体で統一することが、報連相の精度を上げる鍵です。
報連相しやすい職場環境づくり
ルールがあっても、「伝えづらい雰囲気」があれば報連相は定着しません。上司や先輩の受け止め方、日頃のコミュニケーションのあり方が、報連相の質に大きく影響します。
- 上司は“怒らない・否定しない”姿勢を徹底し、相談を歓迎する空気をつくる
- 日常的に声をかけ合い、「困っていないか?」と気にかける文化を育てる
- 雑談や小さなやり取りも「報連相のきっかけ」になる場として活かす
「言いやすい」「聞いてもらえる」という安心感があることで、職員の行動は変わっていきます。
チームで共通認識を持つための工夫
どれほど良いルールがあっても、それが全員に浸透していなければ意味がありません。報連相の方針を共有し、定期的に見直す場を設けることで、チーム全体での共通認識を保つことができます。
共有のための取り組み例:
- 朝礼やミーティングで「報連相の事例」を共有し合う
- 定期的にルールの確認シートを使ってチェック
- 新人向けマニュアルに報連相のフローを明記する
- ヒヤリ・ハット報告会を“責めない雰囲気”で実施する
ルールは作って終わりではなく、育てていくもの。共有とアップデートが習慣化のカギです。
報連相を浸透させるための教育・研修アイデア
報連相は「現場で自然に身につくもの」と思われがちですが、実際には意識的な教育・研修がなければスキルとして定着しにくい行動です。
特に新人や経験の浅い職員にとっては、何をどう報連相すれば良いのか分からず、伝えること自体をためらってしまうケースも少なくありません。
ここでは、介護現場で報連相の定着を図るために有効な教育方法と、日常業務の中で無理なく習慣化する工夫をご紹介します。
OJTやロールプレイによる研修方法
報連相の基本を教える場として、座学だけではなく実践形式の研修を取り入れることが効果的です。
特にOJTやロールプレイは、現場に即した具体的なケースをもとに、考え方や伝え方を体感的に学べます。
- OJT(On the Job Training):実際の業務中に先輩職員がつき、報連相のタイミングや言葉の選び方を具体的に指導
- ロールプレイ:シナリオを使って「転倒報告をする役」「相談を受ける役」などを演じ、客観的に振り返る機会を設ける
また、研修後には「良かった点・改善できる点」などを共有し、気づきが深まるように促すことも大切です。
報連相のロールプレイは、“伝える技術”を安全な場で磨ける有効な方法です。
日常業務で自然に身につける工夫
研修で学んだことを日々の業務に落とし込まなければ、報連相の習慣は定着しません。そこで、日常の中に「小さな実践の場」を仕掛けることがポイントになります。
- 申し送りの時間を“報連相の練習場”として活用
→ 一人ひとりが1件ずつ報告を行い、先輩がフィードバックを行う - 連絡ノートや業務記録に「伝えたかチェック欄」を設ける
→ 書いて終わりではなく、伝達完了を意識する仕組みに - “相談しやすい雰囲気づくり”を全員で意識する
→ 上司が雑談を交えながら声をかける、定期面談の実施など
また、「報連相がしっかりできていた事例」をチームで褒め合う文化を作ると、モチベーションにもつながります。
「相談してよかった」「報告して助かった」などの体験を共有し、報連相の大切さを実感できる場を設けましょう。
報連相は“訓練と習慣”で身につきます。日々の小さな積み重ねが、現場力を育てる土台になります。
まとめ|報連相でチーム力とケアの質を高めよう
介護現場における「報告・連絡・相談(報連相)」は、単なる情報伝達ではありません。
利用者の命と生活を守るため、そして職員同士が信頼し合い、安心して働くために欠かせない“チームケアの柱”です。
報連相がきちんと行われている職場では、ミスやトラブルが減るだけでなく、職員一人ひとりが自信と安心を持ってケアにあたることができます。
一方で、忙しさや遠慮、伝え方の曖昧さによって、報連相がうまく機能しない現場も少なくありません。
だからこそ、ルールやチェックリストを整備し、OJTやロールプレイなどの研修を通して、報連相のスキルを習慣化していくことが重要です。
報連相は、難しい特別な技術ではなく、毎日の中で誰でも少しずつ高めていける行動です。
伝えることを恐れず、気づきを共有し、相談し合える職場こそが、利用者にとっても職員にとっても安心できる環境となります。