介護職として働く中で、「もっと給与が上がればいいのに…」「この待遇で将来は大丈夫だろうか」と感じることはありませんか。 物価高が続く今、生活費の不安を抱えながら働いている介護職員の方も多いのではないでしょうか。
実は、介護職員の処遇を改善するために国が設けた「処遇改善手当」という制度があります。 しかし、この制度について詳しく知らない方や、自分がきちんと受け取れているか分からない方も少なくありません。
本記事では、処遇改善手当の仕組みから対象者、実際にいくらもらえるのか、そして手当が支給されていない場合の対処法まで、介護職員が知っておきたい情報をわかりやすく解説します。
現在の職場での待遇を見直したり、より良い条件の職場を探す際の参考にしていただければと思います。
処遇改善手当とは?

処遇改善手当とは、介護職員の給与や待遇を引き上げることを目的とした制度のひとつです。正式には「介護職員処遇改善加算」という仕組みに基づいて、事業所が国から加算を受け取り、その一部を介護職員に手当として支給しています。
処遇改善手当について理解するためには、まず制度の基本的な仕組みを知っておくことが大切です。 ここでは、処遇改善手当の定義から制度が生まれた背景まで、分かりやすく解説していきます。
もし職場に確認することがある場合、こうした制度の背景も知っておくことで、説得力のある確認の仕方や質問ができるのではないでしょうか。
「処遇改善加算」と「処遇改善手当」の違いとは
処遇改善に関する制度を調べていると、「処遇改善加算」と「処遇改善手当」という2つの言葉が出てきて混乱してしまう方も多いでしょう。 この2つは密接に関係していますが、実は異なるものです。
処遇改善加算とは、国が介護事業所に対して支払う介護報酬の加算のことです。 一定の条件を満たした事業所が申請することで、通常の介護報酬に上乗せして報酬を受け取ることができます。
一方、処遇改善手当とは、事業所が処遇改善加算として受け取った費用を原資として、介護職員に支給する手当のことです。 つまり、国→事業所→職員という流れでお金が流れているのです。
2024年6月からは、従来の「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」の3つが統合され、「介護職員等処遇改善加算」という新しい制度に一本化されました※。 これにより、事業所の事務負担が軽減され、より多くの事業所が制度を活用しやすくなっています。
※厚生労働省「処遇改善加算の制度が一本化」 https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/A1_leaflet.pdf
制度が誕生した背景と目的(賃金改善、人材確保、離職率対策)
処遇改善手当の制度が作られた背景には、介護業界が抱える深刻な課題があります。
まず挙げられるのが、他の業種との賃金格差です。 介護職員の平均給与は全産業平均と比べて低く、この格差が人材確保を困難にしてきました。
また、身体的・精神的負担の大きさに対して納得のいく対価が得られていないと感じる介護職員も多く、離職に繋がるケースも多いといえます。
介護職を辞めたい理由にも、給与の悩みがあります。
さらに、高齢化が進む中で介護サービスの需要は年々増加しているにも関わらず、働き手が不足するという構造的な問題もありました。
質の高い介護サービスを維持・向上させるためには、経験豊富な介護職員に長く働いてもらうことが不可欠です。
こうした課題を解決するため、国は介護職員の処遇改善を通じて以下の目的を達成しようとしています。
- 介護職員の賃金水準の向上
- 介護業界への人材流入促進
- 既存職員の離職率低下
- 介護サービスの質の向上
処遇改善手当は単なる給与アップの施策ではなく、介護業界全体の持続可能性を高める重要な制度です。
誰が処遇改善手当をもらえる?対象者と条件

処遇改善手当について理解できたところで、次に気になるのは「自分はもらえるのか」ということでしょう。
ここでは、処遇改善手当の対象となる職種や雇用形態について詳しく見ていきます。
対象となる職種と雇用形態(正社員・パート・派遣も含む)
処遇改善手当の対象者は、基本的に「介護職員として介護サービスに直接従事している職員」です。処遇改善手当の対象となる職種は、基本的に直接介護業務に従事する職員です。
雇用形態については、正社員だけでなく、契約社員、パートタイム職員、派遣社員の方も対象となります。これは非常に重要なポイントだと思います。
「パートだから関係ない」「派遣だから対象外だろう」と思い込んでいる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際には雇用形態に関わらず手当を受け取ることができるのです。
ただし、支給額については勤務時間数に応じて調整される場合があります。
管理者や生活相談員、機能訓練指導員などの職種については、事業所によって取り扱いが異なります。
これらの職員も処遇改善手当の対象に含めることができますが、直接介護業務に従事する職員を優先して配分することが一般的です。
あなたがこれらの職種に就いている場合は、事業所に確認してみることをおすすめします。
また、夜勤専従職員や短時間勤務の職員も対象となります。
勤務時間が短いからといって手当の対象外になることはありません。
重要なのは、どのような雇用形態であっても、介護業務に携わる職員として働いている限り、処遇改善手当を受け取る権利があるということです。
「自分は対象外かもしれない」と思っている方は、まず事業所に確認してみることから始めましょう。
対象外となる主な職種
- 施設長・管理者(介護業務を行わない場合)
- 事務員
- 調理員
- 運転手
- 清掃員
- 看護師(一部例外あり)
- ケアマネジャー(居宅介護支援事業所の場合)
参考:厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A」 https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/r7_inquiry_1.pdf
処遇改善手当をもらえる条件とは?
対象職種に該当していても、必ずしも処遇改善手当がもらえるとは限りません。
ここでは、介護職員側と事業所側それぞれが満たすべき条件について詳しく解説します。
介護職員側の条件
介護職員側については、実は特別な条件はほとんどありません。 最も重要な条件は、処遇改善加算を取得している事業所で働いていることです。
具体的な条件は以下の通りです。
- 対象職種として勤務していること
- 処遇改善加算を算定している事業所の職員であること
- 雇用形態は問わない(正社員・パート・派遣すべて対象)
- 特別な資格や研修の受講は不要
- 勤続年数の制限なし
つまり、対象となる職種で働き始めたその日から、処遇改善手当を受け取る権利があるということです。 「まだ新人だから対象外」「パートだからもらえない」といった心配をする必要はありません。
事業所側が満たすべき要件
一方で、事業所側は処遇改善加算を取得するために、複数の厳格な要件を満たす必要があります。
2024年6月以降の新制度では、主に以下の3つの要件があります※。
- キャリアパス要件
- 月額賃金改善要件
- 職場環境等要件
取得する加算区分(Ⅰ~Ⅳ)によって、満たすべき要件の組み合わせが異なります。
※厚生労働省「処遇改善加算の制度が一本化」 https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/A1_leaflet.pdf
もらえない場合の主な原因
処遇改善手当がもらえない主な原因は以下の通りです。
事業所側の問題
- 事業所が処遇改善加算を取得していない
- 加算の要件を満たしていない
- 職員への配分を適切に行っていない
職員側の確認不足
- 自分が対象職種であることを把握していない
- 給与明細での確認方法を知らない
- 事業所への確認を行っていない
処遇改善手当が支給されない理由には、いくつかのパターンがあります。たとえば、事業所がそもそも加算を申請していない、あるいは申請が却下された場合、手当の原資が存在しません。
また、加算を取得していても、職員への配分ルールが不明確だったり、特定の職員だけに手当を集中させていたりするケースもあります。
これらを防ぐためにも、自分が働く事業所がどのような加算を取得しているか、職員への配分基準がどうなっているかを確認しておくことが重要です。
処遇改善手当はいくら支給される?加算区分別の金額

「実際にいくらぐらいもらえるの?」というのは、処遇改善手当について最も気になる点の一つではないでしょうか。
手当の金額は、事業所が取得している加算区分によって大きく変わってきます。
また、理論上の支給額と実際に受け取る金額には差があることも多く、その理由を理解しておくことが重要です。
ここでは、加算区分別の具体的な支給額から、実際の平均支給額、そして支給額に影響する要因まで、あなたが受け取れる金額を把握するために必要な情報をお伝えします。
給与アップを検討する際の参考にしていただければと思います。
加算区分Ⅰ~Ⅲの支給額詳細
処遇改善加算は、事業所が満たす要件に応じて3つの区分に分かれており、それぞれ支給額が異なります。
2024年度の基準では、最も要件が厳しい加算区分Ⅰを取得した事業所の職員は、月額37,000円相当の手当を受け取ることができます。
加算区分Ⅰは、キャリアパス要件と職場環境等要件をすべて満たした事業所が取得できる最上位の区分です。
この区分を取得している事業所で働く常勤職員は、理論上は月額37,000円の手当を受け取ることができるのです。
多くの事業所がこの区分の取得を目指していますが、要件が厳格なため、すべての事業所が取得できるわけではありません。
加算区分Ⅱは、月額27,000円相当の手当が支給されます。
この区分は、キャリアパス要件の一部と職場環境等要件を満たした事業所が取得できます。
区分Ⅰと比較すると要件は緩やかですが、それでも一定の水準を満たす必要があります。
加算区分Ⅲは、月額15,000円相当の手当となります。
最も基本的な要件のみを満たした事業所が取得できる区分で、比較的多くの事業所が取得しています。
金額は他の区分と比較して少なくなりますが、手当を受け取れないよりは大きなメリットがあります。
重要なのは、これらの金額はあくまでも「相当額」であり、実際の支給方法や金額は事業所によって異なることです。
基本給に組み込まれる場合もあれば、別途手当として支給される場合もあります。
あなたの事業所がどの区分を取得しているかは、管理者に確認することで把握できます。
実際の平均支給額との差
実際に支給されている手当の金額は、上記の区分ごとの支給額よりも低いといわれています。これは、加算区分や事業所の配分方針、職員の勤務条件などが影響しているためです。
たとえば、同じ事業所でも、正職員とパート職員では支給額が異なる場合がありますし、賞与に上乗せする形で年2回支給するケースもあります。
配分ルールについては事業所ごとに異なるため、確認することが大切だといえるでしょう。
処遇改善手当をもらうには?受け取りまでの流れ
処遇改善手当は、基本的に職員自身が申請を行うものではなく、勤務先の介護事業所が制度を活用することによって支給されるものです。
ただし、正しく受け取るには、事業所側で必要な手続きが行われているかを知り、自身でも支給状況を確認することが大切です。
職員側で確認すべきポイント

事業所が手続きを進める一方で、職員の皆さんも自分の権利を守るために確認すべきポイントがあります。
受け身になるのではなく、積極的に情報収集することで、確実に手当を受け取ることができるでしょう。
まず確認すべきは、自分の事業所が処遇改善加算を取得しているかどうかです。
これは管理者や事務担当者に直接確認することができます。
取得している場合は、どの区分の加算なのか、いつから支給開始予定なのかも併せて確認しておきましょう。
次に重要なのは、自分が手当の対象者に該当するかどうかの確認です。
直接介護業務に従事していること、雇用形態に関わらず対象となることを前章で説明しましたが、事業所の判断で対象外とされている場合もあります。
疑問に感じた場合は、根拠を示してもらうよう求めることが大切です。
支給予定時期についても事前に確認しておくことをおすすめします。
事業所によって支給開始時期が異なるため、いつから給与に反映されるのかを把握しておきましょう。
遡って支給される場合もあるので、その点も併せて確認が必要です。
給与への反映方法についても重要な確認ポイントです。
手当として別途支給されるのか、基本給に組み込まれるのか、賞与として年数回に分けて支給されるのかによって、家計管理の方法も変わってくるでしょう。
不明な点があった場合は、遠慮なく質問することが重要です。
処遇改善手当は職員の権利ですから、説明を求めることに遠慮は不要です。
透明性の高い事業所であれば、職員からの質問に丁寧に答えてくれるはずです。
支給方法の種類
処遇改善手当の支給方法は、事業所によって異なります。代表的な支給パターンは以下の通りです。
- 毎月の給与に上乗せして支給
- 年2回の賞与に加算する形で支給
- 年度末にまとめて支給(いわゆる一時金)
どの方法を採用しているかは事業所によって異なるため、支給のタイミングや金額が分かりづらいこともあります。事前に確認し、見落とさないようにしておきましょう。
自分が処遇改善手当をもらえているか確認する方法
処遇改善手当は、明細書に明記されていない場合もあるため、支給されているかどうかが分かりにくいことがあります。
制度の存在を知らないまま働き続けてしまうケースもあるため、自身で確認する意識を持つことが大切です。
ここでは、実際に支給されているかを確認する具体的な方法を紹介します。
給与明細での確認方法
最も分かりやすい確認方法は、毎月の給与明細をチェックすることです。明細の支給項目に以下のような名称が含まれていれば、処遇改善手当が支給されている可能性があります。
- 処遇改善手当
- 介護職手当
- 特定処遇改善手当
- ベースアップ等支援手当
ただし、事業所によって名称が異なる場合があり、一見して判断しづらいこともあります。
「特別手当」「職務手当」「業務手当」などの名称で支給されている場合もあります。
その場合は、金額や支給タイミングにも注目し、不明な点は確認するようにしましょう。
基本給に組み込まれている場合の確認は少し複雑になります。
この場合、給与明細上では基本給の増額として表示されるため、手当の存在が分かりにくくなります。
過去の給与明細と比較して、2012年以降に基本給が大幅に増額されている場合は、処遇改善分が含まれている可能性があります。
明細で不明な場合は、以下の点をチェックしてみてください。
2012年以降に給与総額が増加しているか、同じ職場の同僚と給与水準を比較して大きな差がないか、事業所から処遇改善に関する説明があったかなどを振り返ってみましょう。
過去の明細との比較も重要な確認方法です。
年度ごとに処遇改善手当の金額が変わることがあるため、過去1年分の明細を並べて比較してみることをおすすめします。
増額や減額があった場合は、その理由を事業所に確認することが大切です。
事業所への確認・相談方法
給与明細を見ても分からない場合は、事業所に直接確認することが必要です。相談の際は、以下のようなポイントを押さえるとスムーズです。
- 「処遇改善加算は取得していますか?」
- 「処遇改善手当の支給は、どのような形で行われていますか?」
- 「配分方法や支給基準について説明していただけますか?」
聞きにくさを感じるかもしれませんが、処遇改善手当は法的に支給が義務付けられた制度です。対象者であるにも関わらず支給されていない場合は、遠慮せずに確認・相談することが大切です。 自分の権利を正しく理解し、適切に行動しましょう。
処遇改善手当をもらえない場合の対処法
「条件を満たしているはずなのに、処遇改善手当をもらえていない」という状況でも、諦める必要はありません。
適切な対処法を取ることで問題を解決できる可能性があります。
まずは事業所との建設的な話し合いから始め、それでも解決しない場合は他の選択肢も検討しましょう。
ここでは、段階的なアプローチをお伝えします。
物価高が続く現在、正当な手当を受け取ることは生活の安定にも直結する重要な問題です。
事業所に相談する際のポイント
処遇改善手当を受け取れていない場合、まず事業所への相談から始めましょう。
多くの場合、情報提供不足や手続きの遅れが原因で、相談により解決できる可能性があります。
相談前の準備として、自分が対象者に該当するかを再確認し、事業所の加算取得状況を調べておきます。
相談時は感情的にならないように気を付けることが大切です。「事実関係を整理し、制度について正しく理解し、適切な手当を受け取りたい」という前向きな姿勢で臨むことが大切です。
具体的には「事業所は処遇改善加算を取得しているか」「どの区分か」「私は対象者か」「支給開始時期はいつか」などを質問しましょう。
相談内容は必ず記録に残し、納得できない回答の場合は書面での回答を求めることも考えてみると良いでしょう。
同僚と情報を共有し、必要に応じて複数人で相談することも検討してください。
一人だけの問題ではなく、職場全体の問題である可能性もあります。
転職を検討する場合の注意点

事業所との相談で問題が解決しない場合は、転職も選択肢の一つです。
ただし、転職前に他の解決方法がないかを再度確認しましょう。
法人本部への相談や都道府県の介護保険担当部署への相談など、他のアプローチも検討することが重要です。
転職を決意した場合は、新しい職場の処遇改善手当の状況を必ず確認します。
面接時に「処遇改善加算を取得しているか」「どの区分か」「実際の支給額はいくらか」などを具体的に質問しましょう。
介護業界専門の転職エージェントを活用することで、詳細な情報を得られる可能性が高くなります。
また、処遇改善手当以外の待遇面も総合的に確認し、長期的に働き続けるための条件を幅広く検討することが大切です。
転職先では入職時に処遇改善手当について再度確認し、雇用契約書や給与規程で詳細を確認しましょう。
現在の職場での問題を繰り返さないよう、慎重に検討を重ねて決断することが重要です。
まとめ
処遇改善手当とは、介護職員の処遇を改善するために国が設けた制度に基づき、事業所を通じて支給される手当です。
ただし、誰でも自動的にもらえるわけではなく、事業所が処遇改善加算を取得していることや、職員が一定の条件を満たしていることが前提となります。
加算区分によって事業所への支給額は異なり、職員への配分も事業所の判断によって変わります。多くの現場では、月額1万~3万円程度が支給されていることが多いですが、勤務形態や役職によって差が出ることもあります。
給与明細や雇用契約書に手当の記載がない場合でも、必ずしも支給されていないとは限りません。不明な点があるときは、早めに事業所へ相談してみましょう。
また、相談しても解決しない場合は、制度を正しく活用している事業所への転職を検討することも、自身の待遇を守るひとつの手段です。
処遇改善手当は、働く介護職員の生活を支える大切な支援策のひとつです。制度を正しく理解し、自分自身の待遇に反映されているかを定期的に確認するよう心がけましょう。