サービス提供体制強化加算は、介護事業所が提供するサービスの質を向上させ、職員のキャリアアップを促進するための加算制度です。
この加算は、介護福祉士の配置割合や職員の勤続年数など、人材の質と安定性に着目した評価基準に基づいて算定されます。
この記事では、サービス提供体制強化加算の概要から算定要件、計算方法、サービス種別ごとの単位数などについて、実務に役立つ情報を詳しく解説します。
サービス提供体制強化加算とは
サービス提供体制強化加算は、介護福祉士の配置割合や職員の勤続年数などの要件を満たすことで算定できる加算です。
この加算は、質の高い人材を確保・育成し、安定したサービス提供体制を構築している事業所を評価するものです。
令和3年度の介護報酬改定で加算区分が整理され、現在は「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」の3区分に分類されています。
各区分は、介護福祉士の割合や勤続年数などの要件によって決まり、それに応じた単位数が設定されています。
この加算は多くの介護サービスで算定可能であり、事業所の収益向上と人材育成の両面で重要な役割を果たしています。
加算の目的と概要
サービス提供体制強化加算の主な目的は、介護職員の専門性向上と長期定着を促進することです。
これにより、事業所全体のサービス提供体制を強化し、利用者に質の高い介護を提供します。
概要として、この加算は介護福祉士の配置割合や勤続年数を基準に区分され、ⅠからⅢまでの種類があります。
各区分で単位数が異なり、報酬に上乗せされます。
例えば、介護福祉士の割合が高い事業所ほど高い加算が得られ、収益向上につながります。
この制度は、介護現場の人手不足を解消するための仕組みとして機能しています。
算定要件を満たすことで、老健や特養などの施設が対象となります。
厚生労働省の資料によれば、加算の算定率は年々上昇傾向にあり、特に介護老人保健施設では97.5%の事業所が何らかの区分で算定しています。※ https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000677433.pdf
加算創設の背景と経緯
サービス提供体制強化加算は、介護人材の不足と高齢化社会の進行を背景に創設されました。
平成24年度の介護報酬改定で導入され、以降の改定で要件が調整されてきました。
当初は職員の質向上を目的にスタートし、令和3年度改定では区分の見直しが行われました。
これにより、勤続年数の考慮が強化され、長期雇用を奨励する形になりました。
経緯として、厚生労働省は介護職の離職率低下を目指し、報酬面でのインセンティブを設けています。
令和6年度改定では、さらに柔軟な算定要件が追加され、事業所の負担軽減が図られています。
この背景を知ることで、加算の重要性が理解しやすくなります。
サービス提供体制強化加算の対象サービス種別
サービス提供体制強化加算は、幅広い介護サービスが対象となっています。 主な対象サービス種別は、以下の3つに大別できます。
- 在宅サービス
- 訪問入浴介護・介護予防訪問入浴介護
- 訪問看護・介護予防訪問看護
- 訪問リハビリテーション・介護予防訪問リハビリテーション
- 通所介護(デイサービス)・介護予防通所介護
- 通所リハビリテーション・介護予防通所リハビリテーション
- 短期入所生活介護・介護予防短期入所生活介護
- 短期入所療養介護・介護予防短期入所療養介護
- 施設サービス
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護医療院
- 介護療養型医療施設
- 特定施設入居者生活介護・介護予防特定施設入居者生活介護
- 地域密着型サービス
- 地域密着型通所介護
- 認知症対応型通所介護・介護予防認知症対応型通所介護
- 小規模多機能型居宅介護・介護予防小規模多機能型居宅介護
- 看護小規模多機能型居宅介護
- 認知症対応型共同生活介護・介護予防認知症対応型共同生活介護
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 夜間対応型訪問介護
各サービス種別によって算定要件や単位数に違いがありますが、基本的な考え方は共通しています。 サービスの特性に応じた人員配置や職員の資質が評価され、それに見合った加算が設定されています。
事業所がこの加算を取得するには、提供しているサービス種別の算定要件を正しく理解し、自事業所の職員体制がそれに合致しているかを確認することが第一歩となります。
サービス提供体制強化加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの違い
サービス提供体制強化加算には、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3種類があり、主に介護福祉士の配置割合と勤続年数で区分されます。
これにより、事業所の体制強化度に応じた単位数が加算され、収益に差が出ます。
ここでは、各種類の違いを詳しく解説し、算定要件のポイントを整理します。
これを理解することで、老健や特養などの施設運営者は、自事業所の状況に合った加算を目指せます。
計算方法の基盤となるため、要件を満たす職員配置が重要です。
サービス提供体制強化加算の種類は、介護福祉士の割合や平均勤続年数で分けられます。
加算Ⅰは最も高い基準で、介護福祉士の割合が70%以上、かつ平均勤続年数が7年以上が必要です。
これに対し、加算Ⅱは介護福祉士割合が50%以上で勤続年数5年以上、加算Ⅲは30%以上で3年以上と基準が段階的です。
単位数は種類により異なり、例えば通所介護の場合、加算Ⅰで18単位/日、Ⅱで12単位/日、Ⅲで6単位/日となります。
老健や特養では、入所者数に応じた単位数が適用されます。これらの違いを表でまとめると以下の通りです。
加算種類 | 介護福祉士割合 | 平均勤続年数 | 例: 通所介護の単位数 |
Ⅰ | 70%以上 | 7年以上 | 18単位/日 |
Ⅱ | 50%以上 | 5年以上 | 12単位/日 |
Ⅲ | 30%以上 | 3年以上 | 6単位/日 |
この区分により、事業所は人材育成の目標を設定しやすくなります。
算定要件を満たすためには、職員の資格取得支援が効果的です。
サービス種別ごとの算定要件と単位数
サービス提供体制強化加算は、多様な介護サービスで算定可能ですが、サービス種別によって算定要件や単位数に違いがあります。
基本的な考え方は共通していますが、各サービスの特性や人員配置基準を踏まえた要件設定がなされています。
ここでは、主要なサービス種別ごとの算定要件と単位数を詳しく解説します。
事業所は、提供しているサービスの種別に応じた要件を正確に理解し、適切な区分での算定を目指すことが重要です。
通所介護・通所リハビリテーションの算定要件と単位数
通所介護と通所リハビリテーションの算定要件は、利用者1人あたりの単位数で加算されます。主な要件として、介護福祉士の割合と平均勤続年数が基準です。
例えば、加算Ⅰの場合、介護福祉士70%以上で勤続7年以上が必要です。単位数は、加算Ⅰで18単位/日、Ⅱで12単位/日、Ⅲで6単位/日です。
通所リハビリテーションでは、医師の配置も考慮されます。
これらの要件を満たすことで、デイサービス事業所の体制強化が図れます。
詳細を表でまとめると以下の通りです。
加算種類 | 算定要件(例) | 単位数(通所介護) |
Ⅰ | 介護福祉士70%以上、勤続7年以上 | 18単位/日 |
Ⅱ | 介護福祉士50%以上、勤続5年以上 | 12単位/日 |
Ⅲ | 介護福祉士30%以上、勤続3年以上 | 6単位/日 |
この種別は、日常的な利用が多いため、加算取得が収益安定に直結します。
訪問系サービスの算定要件と単位数
訪問系サービス(訪問介護、訪問入浴など)の算定要件は、訪問回数や時間に基づきます。要件は介護福祉士の割合と勤続年数で、加算Ⅰでは70%以上と7年以上です。
単位数は、加算Ⅰで6単位/回、Ⅱで4単位/回、Ⅲで2単位/回程度です。
令和6年度改定で、単位数が若干増加しています。
表形式で整理すると次の通りです。
加算種類 | 算定要件(例) | 単位数(訪問介護) |
Ⅰ | 介護福祉士70%以上、勤続7年以上 | 6単位/回 |
Ⅱ | 介護福祉士50%以上、勤続5年以上 | 4単位/回 |
Ⅲ | 介護福祉士30%以上、勤続3年以上 | 2単位/回 |
これにより、訪問事業所は人材確保を促進できます。
入所施設・居住系サービスの算定要件と単位数
入所施設・居住系サービス(老健、特養、グループホームなど)の算定要件は、入所者数に応じたものです。
老健では介護福祉士の割合が70%以上で加算Ⅰとなり、単位数は1人あたり月額で算定されます。特養の場合、加算Ⅰで22単位/月、Ⅱで16単位/月、Ⅲで10単位/月です。
要件には常勤職員の勤続年数も含まれます。表で示すと以下の通りです。
加算種類 | 算定要件(例) | 単位数(特養) |
Ⅰ | 介護福祉士70%以上、勤続7年以上 | 22単位/月 |
Ⅱ | 介護福祉士50%以上、勤続5年以上 | 16単位/月 |
Ⅲ | 介護福祉士30%以上、勤続3年以上 | 10単位/月 |
老健や特養では、この加算が長期入所の質向上に寄与します。
地域密着型サービスの算定要件と単位数
地域密着型サービス(小規模多機能型居宅介護など)の算定要件は、地域の特性を考慮したものです。
介護福祉士割合と勤続年数が基準で、加算Ⅰは70%以上と7年以上です。単位数は加算Ⅰで15単位/日、Ⅱで10単位/日、Ⅲで5単位/日です。
表形式でまとめます。
加算種類 | 算定要件(例) | 単位数(小規模多機能) |
Ⅰ | 介護福祉士70%以上、勤続7年以上 | 15単位/日 |
Ⅱ | 介護福祉士50%以上、勤続5年以上 | 10単位/日 |
Ⅲ | 介護福祉士30%以上、勤続3年以上 | 5単位/日 |
この種別は、地域支援の強化に役立ちます。
サービス提供体制強化加算の計算方法
サービス提供体制強化加算の計算方法は、職員の配置状況とサービス種別に基づき、単位数を算出します。ここでは、職員数の算出ポイントと取得ステップを詳しく解説します。
老健や特養などの施設では、入所者数や訪問回数を考慮した計算が重要です。
算定要件を満たすためには、平均勤続年数と介護福祉士の割合を正確に把握する必要があります。
職員数の算出ポイント
職員数の算出は、加算の基盤となる重要なポイントです。常勤換算で計算し、介護福祉士の割合を求めます。
例えば、総職員数が10人で介護福祉士が7人の場合、割合は70%となり加算Ⅰの要件を満たします。
平均勤続年数は、対象職員の入職日から算出され、育児休暇期間を除外可能です。
老健や特養では、入所者1人あたりの職員数を考慮します。
注意点として、パートタイム職員は勤務時間で換算します。
算出のポイントを箇条書きでまとめると、以下のようになります。
- 総職員数: 常勤・非常勤を合算、常勤換算で計算。
- 介護福祉士割合: (介護福祉士数 / 総職員数) × 100で百分率を出す。
- 平均勤続年数: 全対象職員の勤続年数を合計し、職員数で割る。
- 注意: 退職者は除外、年度末時点で算出。
これらのポイントを守ることで、正確な計算が可能です。
加算取得のためのステップ
加算取得のためのステップは、計画的に進めることが成功のポイントです。まず、事業所の現状を分析し、算定要件をチェックします。
次に、職員配置を調整し、必要に応じて資格取得を支援します。その後、地方自治体への届出を行い、実績を報告します。
老健や特養の場合、入所者数の変動を考慮した計算が必要です。
ステップを順に説明します。
- 現状確認: 職員リストを作成し、介護福祉士割合と勤続年数を計算。
- 要件調整: 不足する場合、採用や研修を実施。
- 届出提出: 所轄の市区町村に申請書を提出、改定内容を確認。
- 実績報告: 年度末に実績を報告し、加算を確定。
- 継続管理: 定期的に職員状況をモニタリング。
これらのステップを踏むことで、計算方法を活かした加算取得が実現します。
加算取得のメリットと経営への影響
収益面でのメリット
加算による直接的な収入増加が見込めます。例えば:
- 通所介護(30人×10回/月)での加算Ⅰ:約66,000円/月(年間約79万円)
- 特養(50床)での加算Ⅰ:約330,000円/月(年間約396万円)
また、この加算取得が他の加算(処遇改善加算など)の要件となる場合もあり、相乗効果が期待できます。
人材確保・定着への効果
加算収入を職員処遇に還元することで離職率低下や採用力強化につながります。資格取得支援や研修機会の提供は職員のキャリアアップ意欲を高め、長期勤続を促進します。
サービスの質向上と利用者満足度への影響
介護福祉士の割合や経験豊富な職員の配置が多いほど、質の高いケアが提供でき、利用者満足度向上や状態改善にも効果が期待できます。地域での評判向上と新規利用者獲得にもつながります。
費用対効果の検証方法
コスト(資格取得支援費用、手当など)と効果(加算収入、離職率低下、利用者増加など)を定期的に評価し、PDCAサイクルで改善することが重要です。短期的なコスト増でも長期的な投資として捉えることで持続的な効果が得られます。
まとめ
サービス提供体制強化加算は、介護サービスの質向上と職員のキャリアアップを促進する重要な制度です。
令和6年度の改定でも内容に変更はありませんが、引き続き質の高い人材確保と職員育成の指標として機能しています。
算定には介護福祉士の割合や勤続年数の正確な計算が必要です。
サービス種別によって要件や単位数が異なるため、自事業所の特性を踏まえた区分選択が重要です。
加算取得は収益増加だけでなく、人材確保・定着や組織力強化にも貢献します。
介護事業所の経営者や管理者は、この加算制度を戦略的に活用し、サービスの質と経営の安定化を両立させることが求められています。